人気ブログランキング |

2012年 03月 03日 ( 1 )

「紙の月」角田光代

a0079948_1273210.jpg
「紙の月」 角田光代
怖い本を読んでしまった。
銀行でパートをしていたまじめな主婦が
1億円を横領する話。1億円を横領って、
もしも自分だったらって考えると、凄く
大胆で到底できそうにない大犯罪って
感じがする。でも他人事として読めない
構成なんです、この小説…最初は、
若い男の人に老けた女と思われたくなくて高級コスメを衝動買いすることに
したときが、発端といえば発端。
手持ちの自分のお金が無くて、つい、お客さんから集金した5万円で買ってしまう
のです。一瞬だけど他人のお金に手をつける。
そのときはすぐに銀行で自分のお金を下ろして補填するので、本当に
「立て替えただけ」というだけで終わるのですが。
それが、次第に、何かに取りつかれたようにお金を使い、自分を信頼する顧客に
架空の定期預金をさせてその金を自分の口座へ…という詐欺をするまでの展開が
丁寧に描かれています。
デパートでつい試着もしないで服を買う場面。
高いものを買った後デパ地下で1000円以上のお弁当を見ても「高い」と
思わなくなってて無造作にこれもカードで、と買ってしまう場面。
たくさんのショップ袋を提げている自分を誰かに見てほしいと思う場面。
…嫌だ、ここまでならば、私にも、心当たりあるじゃん。
てことは、私のこの買い物への愛も、行き着くところはもしかして…と
今の自分の日常の延長にこんな怖いことも起こりえる?と想像できてしまう。
1億円横領女と私が、まったく別のステージ上にいるわけではなくて、割と
スタート地点は似通ってるというところが、本当に怖かったです。

「八日目の蝉」同様、愛情の行き場を、ぶつけ方を、表現を間違って犯罪者に
なってしまうヒロインの描き方が温かくも冷たくも無く「この人は、絶対に
この犯罪に走ったんだろうな、ごく普通に」という感じだったのが、この作家の
凄いところです。

凄い、怖い、ばかりでヘンな感想文になってしまいましたが、コレを読んだ後に
デパートに行くと、いつものように軽く「試着してみようかな」とか「では
こちらをいただきます」とカードを取り出しつつ声かける、みたいな行為が
とても重たく業の深いものに思えてきます。買い物が怖くなるなんて…この私が!
というだけで、この本の怖さ、相当なものです。
by tohko_h | 2012-03-03 20:06 | reading